剣客のロマン! るろうに剣心の逆刃刀は再現できるか?

剣客のロマンるろうに剣心の逆刃刀は再現できるか
1994年から1999年に週間少年ジャンプに掲載された和月伸宏先生の漫画「るろうに剣心」ファンの方は今でもとても多いと思います。最近人気俳優の佐藤健さん主演で映画化されて若い方にも人気で、そちらも大ヒットを飛ばしています。私も夢中になって本の表紙がすり切れるほど読みふけり、画面に繰り返し見入っていました。
また最近では人気スマホゲーム「パズル&ドラゴン(パズドラ)」とのコラボレーションも発表されましたね。

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その主人公である緋村剣心の愛刀は逆刃刀ですね。刃が通常とは逆方向の棟側につき、切れないことから、不殺の刀とされています。
ですが、逆刃刀の実物は見たことがありません(近年発見された「逆刃刀」は、華道で使う花切り包丁だそうです)。あるなら是非とも見てみたい!

というわけで調べてみたところ、意外な事実が分かってきました。鉄の性質や、刀剣の製作工程などを交えながら、刀剣研磨職人見習いの私、千歳翁生が説明します。

1枚目_千歳-翁生

剣心の「殺さず」の刀

剣心は幕末に人斬り抜刀斎とあだ名される、凄腕の剣士でした。戦乱が収まった明治期、多くの人の命を奪ったことを後悔し、人を斬らない、不殺の誓いを立てて刃が通常と反対の背部分=棟側についた逆刃刀を持つようになります。この逆刃刀で、人を殺さずして制していき、巨悪に立ち向かう、というのが「るろうに剣心」のストーリーです。

通常の刀
通常の刀

この逆刃刀は剣心の心優しさと悔恨を示す、一つの象徴ともなっているように感じます。

刃がないのだけれど……

師事している刀剣研磨の師匠にあれこれお聞きしました。師匠は研磨のみならず、古武術や鉄の性質などにも精通しておられるので、このテーマをおたずねするのはこの方しかいません。
すると、いきなりショックな事実が。

こんなエピソードを教えていただきました。

【ある時、くじら漁で使う銛の先端を平らにした人がいました。その人は周囲から馬鹿にされ、笑われました。くじら漁で使われていた銛はただでさえ刺さらせるのが難しく、少しでも角度がずれるとくじらの肌に弾かれてしまうのに、と。しかし実際に使ってみたところ、その人の銛は百発百中、次々に命中させていったそうです。】

これと同じことが刀にも言えるのだとか。実際に刀で巻藁や竹などを斬ったことのある方はご存知だと思いますが、きちんとした角度で斬らないと刀はやすやすと弾かれてしまいますね。
実戦の際、目まぐるしく動く相手を確実に捕えるなど、とても難しいことです。かすり傷をつけることは簡単だと思いますが、それでは強敵には通用しません。もちろん少し当たれば皮を剥ぐくらいはできますが。

kenshin
©和月伸宏 / 集英社

それに対し、刃のない側で「叩く」逆刃刀はどうでしょうか。刃がすべらない分、「打つ」という刀本来の機能性は高まります。そこから粉砕骨折、頭蓋骨陥没、内臓破裂などなど、より深刻なダメージを与えることが可能になります。
つまり、動く相手を確実にとらえて大きなダメージを与えるには、強い力で叩くなら当たる面積が広いほうが確実性が高い、ということになります。

ということは、「使い方によっては逆刃刀のほうが通常の刀に比べて、より危険である!」
ショック!

逆刃刀を見たい!

では本題に入りましょう。

砥師一年生の私、さっそく師匠に、通常とは反対の棟側に刃のついた逆刃刀、ありませんか? とおたずね。すると、なにやら楽しそうに笑っておられます。どうして?

鉄の性質と刀剣の製作方法の関係について、説明していただきました。

刀剣の製作方法と鉄の性質

刀剣には反りがあり、それが日本の刀剣の特徴の一つともなっています。この反りが逆刃刀製作の最大の課題となります。
まず、その反りができる仕組みを見てみましょう。

刀剣には刃文があるのはご存知でしょう。この刃文を作る過程と反りとは密接な関係にあります

白く波打っている線が刃文 
白く波打っている線が刃文

 

刃文は切れ味を上げるために作られた刃と地鉄(じがね)の境目です。簡単に言うと、鉄の硬い部分と柔らかい部分の境目だと考えていいでしょう。硬い部分が刃で、柔らかい部分が地鉄です。包丁と違い、刀剣は刃の部分を別の素材で作ることはしません。そのため、焼き入れと呼ばれる、刃を硬くする作業が必要になってきます。この焼き入れによって、反りが生まれます

刀身全体に薄く土を塗った後、さらに土の厚さを変えながら重ねて塗って(これらの作業を土置き〈つちおき〉と呼びます)高温で焼き、水で急冷することで刃と地鉄の違いができます。様々な要素が絡んでくるのですが、ごく簡単に言うと土を厚く塗ったところが柔らかく、薄く塗ったところが硬くなります。つまり、刃にしたい部分は土を薄く塗ることになります。この境目が刃文です。

高温の火で熱し、一気に水に入れて急冷する、これによって刀身に日本の刀剣独特の反りが生まれるのです。以下に図解しましょう。

分かりやすいよう、まっすぐな刃文を作る場合で説明します。
刀身を脇から横長に見ていると考えてください。

 

オレンジ部分とグレー部分の境目が刃文になります
オレンジ部分とグレー部分の境目が刃文になります

 

日本の刀剣の反りは、意図して無理やりつけるというより、この焼き入れによって大半ができるものと考えていいと思います。

土を厚く置いた部分はゆっくり冷え、薄く置いた部分は急速に冷えます。

急冷の温度差_千歳 翁生

土を置く厚さに加えて、刀身自体の形状、つまり、棟側が厚く、刃側が薄い、というのも温度変化の非常に大きな要因となります。反りのみに関して言えば、刀身の形状が大半の要因となります

一般的な刀剣の断面
一般的な刀剣の断面

 

鉄は高温で伸び、低温になると戻る性質がありますが、刀身の焼き入れをすると不思議な現象が起こります。
土と刀身が薄くてすぐに冷える部分は、水に一気に入れるといったん急激に縮んだ後、組織変化が起きて再び伸びていきます。土と刀身が厚い部分は、そのままゆっくりと元の大きさに戻っていきます。結果、棟のほうが短く、刃のほうが長くなるのです。

伸縮図_千歳 翁生

これにより刀身に反りと刃文が生じるのです。

全体図_千歳 翁生

逆刃刀が見たいのだけれど……

刃の部分と棟の部分の関係は、反りと密接な関係にあります。刃にしたい部分はどうしても長い辺になるし、棟にしたい部分はどうしても短い辺になるのです。刀匠のかたによると、無理やり反りを直そうとしても、なぜかいつの間にやら元に戻ってしまうのだそう。逆刃刀の実現は、事実上困難を極めると言わざるを得ません。がっかり。

銃刀法との関連

現代の日本には銃刀法があり、刀剣製作にも厳格な基準が定められています。詳しい法律の引用は煩雑になるのでしませんが、大前提として、現代において刀剣は美術品となっています。
そのため、伝統的な手法で伝統的な形で作られるものである必要があり、逆刃刀も法律違反となる可能性が高いと思われます。そうした意味からも、逆刃刀は実現困難なのだそうです。とても残念。

ちなみに、刀匠としての資格がない素人が刀剣を作ると法律で罰せられますので、お気をつけて。

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刀剣の製作工程

ちょっと残念な結果になってしまいましたが、せっかくなので、ごく簡単に、刀剣のできるまでを見ていきましょう。

玉鋼を作る

現在、刀剣を作るには日本美術刀剣保存協会のたたら製鉄による日刀保たたらで作られた玉鋼(たまはがね)を使うことがほとんどです。

玉鋼_千歳 翁生

刀匠による作刀

玉鋼などから刀を作ります。7キロほどもある大槌をふるい、飛び散る火の粉でやけどは日常茶飯事、服も焦げてたくさんの穴が開く、大変な作業です。

1、下鍛えなど

2、素延べ

3、火造り

4、全体をダイジェストで

研師による研磨

刀匠の作った刀は、そのままでは完成しません。砥師によってたくさんの種類の砥石で細密な研磨が施されて、初めて博物館などで目にするような状態になります。刃渡り約70センチほどの長さの刀を研ぎあげるのに、平均で10日ほどもかかります。

刀剣研磨に使用する砥石のごく一部
刀剣研磨に使用する砥石のごく一部

 

鞘師による白鞘(しらさや)製作

刀身を保護するための鞘は、それぞれの刀に合わせてすべてオーダーメイドで作ります。素材は朴(ほお)の木で、続飯(そくい)というご飯粒を練ったもので刀身の形に合わせて彫った二枚の板を貼り合わせて作ります。

白鞘_千歳 翁生

 

白銀師(しろがねし)によるはばき製作

刀身を鞘に固定し、鞘の中で刀身を浮かせてきれいな状態を保つため、刀身の刃部分と持ち手部分の境目につけられる金具がはばきです。素材は銅が多いですが、金や銀、あるいは金や銀を銅に被せたものなどがあり、家紋や美しい鑢目などがつけられます。

古い太刀はばき
古い太刀はばき

 

金色の部分がはばき
金色の部分がはばき

 

 

その他、漆塗りの鞘や、鞘に施す蒔絵、糸などを巻いた小柄、その他の金具、錦の刀袋など、刀剣には日本美術の粋が詰まっています。

柄巻

装剣金工(刀身彫刻・鍔など)

いかがでしたか?

このところ女性にもオンラインゲーム「刀剣乱舞」の影響で刀剣ブームが訪れています。
刀剣には老若男女を問わない魅力、神々しい美しさがあります。
また、最初は難しいと感じるかもしれませんが、年数を重ねるごとに違ったものが新たにどんどん見えてくる、非常に奥深いものを秘めています。

少し刀剣に興味を持っていただけたら、ぜひ彼女を誘って刀剣関連施設に足を運んでみてくださいね!

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